多民族共生人権教育センター
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北口 末広 さん

北口末広さんプロフィール

 1956年4月大阪市生まれ。京都大学大学院(法学研究科博士課程)終了。現在、近畿大学教授、部落解放同盟大阪府連合会書記長、ニューメディア人権機構理事兼事務局長。
 著書に「人権ブックレット55 人権社会のシステムを 身元調査の実態から」(解放出版社、1999年)、「人権の時代をひらく改革へのヒント」(解放出版社、2000年)など。

(部落解放同盟大阪府連合会書記長)

「部落解放運動と多民族共生」

2001年4月12日
部落解放同盟大阪府連合会にて

 今回のインタビューは、本センターの理事でもある部落解放同盟大阪府連の北口さんにお話をうかがいました。部落解放運動を闘われてこられた中で、多民族共生の問題をどう捉え、どう考えていらっしゃるのか。また、21世紀を人権の世紀にするために、人権問題にかかわる者(団体)に必要とされるものが何なのかを明らかにしていただきたいと考えます。


Q:まず、被差別部落の問題の現状と課題について、どう見ていらっしゃいますか?

北口末広さん 最大の課題は、次の運動を担う人材をどう育てるかでしょうね。私が20歳の時と今の20歳の場合では、被差別部落出身者としてのアイデンティティも当然違います。30年前は部落総体が貧しかったわけですが、今は階層分化が進んでいます。今までなら運動の課題として、部落全体の底上げを、と言えた。けれど今はアイデンティティも生活レベルも多様化しています。その多様化を受け入れつつ、どう運動のエネルギーとしていけるかが課題でしょう。今でもしんどい問題は、いろいろあります。部落差別は世の中全体の矛盾の現れです。つまり、部落差別撤廃を考えていくことは、世の中全体の差別を解決していくことにつながります。2000年に実態調査をやりました。そこでも情報格差をはじめ、さまざまな格差が明らかになっています。
 社会学者のマズローは5段階の欲求階層説をとなえました。1番下は生理的欲求、2番目は安心して暮らせる環境の欲求。以前の部落解放運動は、まずここを確保するために闘ってきたわけです。3番目は所属や愛情の欲求。4番目が承認の欲求。そして1番上の階層が自己実現の欲求です。3番目以降は人によって多様です。部落の人たちは、4番目や5番めはまだまだ満たされていないことが多いのではないでしょうか。以前だったら単一の欲求で闘えたけれど、いまや個々の人によって要望も多様化しています。
 私たちの運動では、課題・目標として、以下の3つを掲げています。(1)人権を軸とした社会システム、(2)人と人との豊かな関係、(3)自己実現。
 アメリカのADA(障害をもつアメリカ人法)の基本的な考え方は、以前は行政のお金を給付せよということだったのが、今度は、障害者自身が納税したい、そのためには所得がないといけないから、自立して生活できるように社会基盤を整備せよ、ということを要求しています。ここでは、「自立して生活できる権利」を軸とする社会システムが求められているのです。
 これは、在日コリアンにも関連することですが、1999年12月1日に、職安法(※1)が改正されました。そこでは、応募者の能力でさえ、本人の了解がないと調査できません。勝手な採用調査はできないのです。これは、被差別部落出身者だけではなく、他の社会的不利を被りやすい人にとっても有益です。部落問題を出発点としつつ、このようなシステムができていくことは、社会システムが人権を軸としたものになっていくということです。

Q:部落解放運動をリードされている立場から、在日外国人差別をどう見ておられますか。

 オールドカマーとニューカマーの違いをふまえた上で、現実から方針を与えられるでしょうね。オールドカマーには部落問題と同様の問題があるのでは。運動が進めば進むほど、出身者としての意識やアイデンティティは変化します。「在日」としての意識も20歳前後は多様化しているでしょう。今の日本社会は、「共生」と程遠い。制度のバリアに加え、意識や心のバリアがありますが、これは社会の仕組みと関わっています。仕組みと意識は密接なかかわりがあって、「心のバリア(差別意識)だけがある」ということはありえないと考えます。本当の意味で多文化共生になるためには、多文化共生ができるような意識を育てる社会システムをつくることが必要だと思います。
 在日外国人差別は変化していくでしょう。部落出身者の数はそう増えないが、ニューカマーは増えていきます。名古屋入管の坂中氏が(日本社会は)縮小の道か拡大の道か(を辿る)と言っていましたが、縮小はありえません。拡大していけば、悪くすると人権摩擦が起きますし、うまくいけば「多民族共生」への道がひらけます。日本社会は「多民族共生」のほうに、変わっていかざるをえません。ニューカマーには力がありませんが、オールドカマーには日本社会で生きてきた蓄積があり社会的基盤があります。両者がセットされてこそ、日本社会を変えられると思います。
 外国人労働者の受け入れは必須になっていきます。差別をどう見るかという以前に、外国人の受け入れ問題は、これからの日本社会を民主的に運営していくためには避けて通れない問題です。積極的に関わることによって暮らしやすい社会になる。日本人にとっても。そのために、どういう認識をもつかが大事でしょう。
 多民族共生人権教育センターの役割は「教育、啓発」だけれど、それを通じて、「人権を軸とする社会システム」をつくることに貢献していただきたいし、私も理事の一人として努力していきたい。

Q:21世紀を「人権の世紀」とするため、何が必要だと思われますか。

北口末広さん そもそも、「人権の世紀」という言葉を「人権が尊重される世紀」だと誤解している人が多いのです。私は「人権を重視しないと、もたない世紀」だと思います。テクノロジーが高度化・複雑化するとともに、人権問題も高度化・複雑化します。それに対応する柔軟な認識とシステムがなくてはいけません。21世紀初頭は「遺伝子差別」が最大の問題になっていくと私は見ています。遺伝子の検査が雇用、保険、出産などで差別につかわれる恐れがあります。今まで出身や所属で排除されていたのが、今度は遺伝子で排除されることになりかねない。「部落差別はなくなったけど、遺伝子差別は残る」とか、「在日への差別はなくなったけど遺伝子差別が増える」ということではいけないはずでしょう。それでは本来の差別撤廃ではありません。優生思想でもあります。
 アメリカでは現にこれらの差別が起こっています。遺伝子でわかる病気は6,000もあるそうです。知られない人権は守られないですから、こういう現実を知ることも大切です。いかに知らせるか、問題を喚起するかです。それをふまえて、法的・倫理的・社会的な研究が必要でしょう。何にせよ、まず現実を知ること、それを深く分析すること、課題を設定すること、そして政策化し、実行することです。

Q:社会システムと意識は密接に関連しているとおっしゃいましたが、21世紀の在日外国人の問題に関して、どこからシステムづくりを行えばよいでしょうか。

 どのようなシステムが必要かということは、そんなに難しくありません。他国にたくさん事例があります。ヨーロッパ、アメリカのいい制度、いい面をとりいれたらいいのです。失敗もふまえて。特に北欧では外国人市長までいるんですよ。モデルはあるが、日本の国内にどう導入するかという政治の問題があります。参政権にしても、反対派が多いですね。「外国人との共生」を多数派にするための大切な要素が、教育です。

Q:アメリカにはアファーマティブ・アクションがありますが、この制度も賛否両論があると聞きます。

 アファーマティブ・アクションに反発するのは、下層の白人など、気持ちの上では黒人に優越意識を持っている人。自分たちは被害者だと思っている。優越意識と被害者意識が重なるとき、最も激烈なファシズムが起こります。ナチス時代のユダヤ人にしても、同和地区の「ねたみ」の問題にしても同じです。そういったことを、鋭く分析していく必要はあります。

Q:多民族共生人権教育センターをはじめ、在日外国人の人権保障と日本人との共生を進めていく人権団体等に求められているものは何だとお考えですか。

「ニューメディア人権機構」が運営するホームページ「ふらっと」

「ニューメディア人権機構」が運営するホームページ「ふらっと」

 教育と啓発をやろうとする団体に大事なことは、本当に悩んでいる人の相談にいかにのれるか、ということでしょう。相談とは運動の原点ですから。その人が困っている、ということは実際は他の人も困っているのだから。実のある教育は、相談にのり、現実を把握しないことにはできないでしょう。法律や条例をつくるときも立法事実が必要です。相談活動をしてこそ生きた教育ができ、生きた提言ができるし、いろんな運動体や行政機関に影響を与えていくことができます。だから相談を受けられる体制や、来やすい雰囲気をいかにつくっていくかが大事でしょう。自分のところだけで受けられなかったら、NPOを含め、いろんなところにネットワークをつくればいいのです。
 私のところでは「ニューメディア人権機構」をたちあげています。現在構築中ですが、そこの「ふらっと相談室」で相談に応じる中で、救済のしかたも蓄積しています。そうした蓄積が、政策センターとして役にたっていきます。リソースになるし、それをいろんな運動に返していけます。
 運動の体制をつくるためには、人とお金が必要です。しかしそれが、あるエセ団体のように、それが不正な手段であってはなりません。正しい現状認識の上で、こういうことをしようとしているんだ、という夢をきちんと示していくことです。課題をはっきりさせ、そのためにどんな組織をつくり、どんな戦略で実現するか。こういう社会貢献をする、というのを明確に打ち出して、多くの人の賛同を得てほしいです。

 

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