多民族共生人権教育センター
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講演 村西利雄さん「これからの地域社会における行政参加のあり方」

村西 俊雄 さん

村西俊雄さんプロフィール

1941年生まれ。高校卒業後、大津地方法務局職員を経て、滋賀県職員に。土木部次長、人事委員会事務局長、県立大学事務局長を歴任し、2000年に滋賀県を退職し、米原町長助役に就任。同年10月、前町長の病気辞任に伴う選挙に当選し米原町長に。

(滋賀県米原町長)

「これからの地域社会における行政参加のあり方」

2002年7月26日
2002多民族共生人権研究集会 記念講演

○発端となった町村合併問題

 米原町は交通の要衝にあり、人口は12,700人の町です。今回、住民投票条例を制定する上で、一つ大きかったのが市町村合併問題でした。米原町というのは、北に長浜市という湖北の中心都市があって、隣には彦根市があります。合併するなら、米原町としてどうするのかがクローズアップされてきました。長浜を中心とする案、彦根を中心とする案、もうひとつ、坂田郡4町で人口は4万ちょっとですが、その郡だけで合併しようじゃないか、という案もでてきたわけです。米原町は真中ですから、住民のみなさんの生活パターンは広がっており、買い物や医療関係でどちらに行くかもちょうど半々です。過去にも合併問題があり、議会でいったん決めたけれど住民のほうから大反対があり、一夜にしてとんでしまった歴史があります。住民のみなさんと議論しながら考えるというプロセスが非常に大事なわけです。

○大事なことは住民で決める ―住民主体のまちづくり―

 これからの住民自治は、みんなが決めて、みんなが責任をもつ、みんなで負担もする。自己決定、自己責任、自己負担の時代です。21世紀の住民自治のあり方は、「住民主体のまちづくり」です。住民の皆さんの民意を大切にしたい、ということです。日本社会では議会制民主主義の中で、「大事なことは住民で決める」というルールは確立されていません。条例については憲法にも地方自治法にもきちっと書いてあるのに、「大事なことを、住民の意見を聞いて決める」というのは日本社会でははあまり一般化していません。アメリカでは学校をつくるのでも住民投票で決めるそうです。

○「住民」は国籍を問わない

会場風景 永住外国人の問題は最初から提案していました。米原町では、部落問題ではリーダー的な人を輩出しています。部落問題への取組みには住民にも議会にも熱いものがあるので、永住外国人の問題も人権問題からとらえよう、という空気もありました。
 一番の問題は地方参政権との兼ね合いでした。地方参政権がまだ国会で議論されている段階であるのに、先走ってはどうか、という懸念です。私は地方参政権と「まちづくり参加」は切り離して考えよう、というところからスタートしました。すなわち、地方参政権は立法政策によるので、あとは国会の判断です。最高裁で「違憲ではない」ことははっきりしていますから。住民投票はまちづくりの問題です。地方自治法には、「住民はサービスを等しく受ける権利があり、負担を負う義務がある」と書いてあります。市町村に住所を有する者は、国籍いかんにかかわらず「住民」なのです。
 平成14年1月の臨時議会で、「永住外国人にも住民投票権を与える」ことが可決されました。「住民主役のまちづくり」は、誰もが言います。しかしいかに実現するか。いかに合意形成をはかっていくかが問題です。
ふだんは選挙の投票率は3〜4割と、良くないのですが、この住民投票では最終的に69.6%でした。合併問題のような、住民のみなさんにとって身近で、しかも大きな課題は、これだけの関心を示してくれるんだとわかった次第です。

○国籍条項撤廃の経験

 私は県庁に勤めていた時代、人事委員会にいました。採用の際の国籍条項撤廃問題が社会問題化していました。そこでは、組織にとっては、有能な人は国籍で判断するのでなく、どんどん入れていこうということになりました。すでに研究職・技術職・医療関係の現場のマンパワーでは、個別にどんどん国籍条項が撤廃されてきました。最後に残ったのが一般行政職。事務、土木、建築などでした。そこで外国籍を撤廃するかどうか。研究をして、やはりもっと門戸を開けていくべきだし、それが組織の活性化につながっていく、新しい意見、発想が得られることがわかりました。「ぜひ撤廃すべき」という意見になってきまして、委員会を3年間やった後、滋賀県は平成12年から国籍条項を撤廃しました。

○閉鎖社会に発展なし

 そういう知識もあって、地域社会で外国人の社会参加を広げることを考えていました。滋賀県は、人口は多くありませんが、率では2%近い外国人がおられます。最近はブラジル人が増えて、トップになりました。その次が韓国・朝鮮籍の方、次が中国人です。今後の地域社会は外国人を抜きには考えられません。日本はこれからの人口が減ると言われています。もし何にも手を打たなかったら、国力低下は避けられません。外国人の方に開かれた町、国家になっていかないと未来がないと思います。今は過渡期ですが、ここをどう切り開いていくか。どこにいっても外国人がおられます。地方でもそうです。コンビニでも駅でも、外国人の方と普通に出会います。外国人の方にもまちづくりに入っていただいて、ごみ問題、子育て、環境、福祉といった課題についても、一緒に考えて共生していかなくては地域の未来はありません。「閉鎖社会に発展なし」という思いでいます。

○「投票箱の前で手が震えた」 −在日外国人住民の反応−

 今年1月に永住外国人を含めた住民投票条例が可決されてから、外国人の方と話をする機会も増えました。4〜5人来ていただいて、意見を聞く会をもちました。そのなかでも、在日韓国人女性の方が、涙を流さんばかりに喜んでくださいました。日本で生まれ、日本語しか話せず、地域にとけこんで自治会の役員もやっておられた。ところが選挙の時、投票所の券を配る役割をしているのに、自分の分はないわけです。自分が配るのに自分の分はない。非常に寂しいわけです。「投票箱の前で手が震えた」「投票して、(紙が落ちる)ポトンという音がした時、なんともいえない実感があった」とおっしゃっていました。
 他にも在日外国人の方の反応として、「これまでは税金を払っていても、住民であって住民じゃなかった。やっと町の一員として認めてもらえた」「自分の意見を聞いてもらえることが、こんなに嬉しいとは思わなかった、米原の住民であることを誇りに思っています」、というご意見がありました。「子どもたちの未来にとって良いこと」というフィリピン人のお母さんの声もありました。また、「日本人の友達と、どこに入れるか、熱っぽく議論できた」、「私も井戸端会議にくわわれた」というご意見も聞くことができました。

○その他の反応

 外国人組織の意見は次のようなものでした。民団の方は「地域住民として意思決定に参加するのは、大きな意義がある、米原町の英断に感謝します」といって、条例可決の後、大阪の総領事さんが駆けつけて下さり、握手をさせていただきました。「在日世代は3世、4世世代になっている、地域に密着して暮らしているこの子どもらが地域作りに参加できるのは社会の要請」と言われました。続いて、総連関係ですが、地方参政権については違う考えをお持ちですが、「住民投票に参加できるのは良いことだ」と言われました。
 最後に一般住民の意見です。「この町に一緒に住んでいる住民なのだから、彼らに投票権があるのは当然だ」「この町が人権問題に真剣な町だと全国にアピールできた」、「差別する理由がどこにもない」といったご意見をうかがいました。

○匿名の電話 −根強い差別の現状−

 ところが一方、いやがらせもありました。外国人住民と対談して、そのことが新聞記事になった後、その方の家に匿名の電話がありました。「ガイジン、思い上がるな。投票権なんかやるもんか。日本国籍をとれ」ときつい口調の電話がかかってきました。相当なショックをうけられました。「(住民投票の)当日に行くのは、かなん」ということで、在日韓国朝鮮人の方は半数が不在者投票をされました。そういうこともまだ、あるわけです。
 投票当日、たくさんの取材が来ていましたが、新聞に出たのはアメリカ人でした。マスメディアは韓国・朝鮮の人のコメントや写真を欲しかったけれど、どうしても協力がもらえなかったそうです。これはとても悲しいことです。

○マスコミの反応

講演中の村西さんの写真 住民投票条例へのマスコミの反応は「歓迎」でした。朝日新聞は社説で、「地域で一緒に暮らす外国人に同じ一票を保障したことは大きい」と書きました。毎日新聞は「日本国籍のみに限定するのがあたりまえだった排外主義に変化の兆し。権利に差をつける社会は、共生社会とは言い難い」と。読売新聞は、「外国人へのいわれのない差別をしていてはまちづくりが立ち行かない時代になってきた。少数者が気兼ねなく権利を主張できる社会をめざさなければならない」と書いています。また、「小さい町の決断は、日本社会に重い課題をつきつけた」、「これまで日本では住民として位置付けられてこなかった。「米原町のあたりまえの決断に敬意を表する。しかしこれが『画期的』といわれるのが、日本の現状をものがたっている」と書いた雑誌もありました。

○反対意見と脅迫

 条例が可決してから、直接、役場にいろんな声が届いてまいりました。手段別に見ますと、電話32件、メール99件、郵送16件でした。匿名もあれば、きちっと住所氏名電話を書いているものもありました。
 賛成の意見は先ほど述べましたので、反対意見の主なものを挙げます。「国籍のない者に参政権を認めるな」、「これを足がかりに次は、地方参政権の要求を言い出すのではないか。帰化の自由があるのに」、「国籍は忠誠心、帰属意識に関わる」「別の国籍の人は、いざとなると自国へ逃げ帰れる」といったものです。「三国人!」と書いたものもあり、びっくりしました。これは石原都知事の発言からきたものでしょう。
 日本は人種差別撤廃条約も最近批准したばかりです。外国人の人権に関する日本の歴史は非常に浅いのです。ヨーロッパ諸国などとは、人権問題の感覚が全然違います。
 脅迫もありました。「あなたは売国奴。死んでください」、「売国条例をつくったお粗末な町長さん、日本国をどうさせるのか」といったものです。インターネットの2チャンネルというのは無責任きわまりないところですが、ここで、「外国人参政権断固反対」、「村西に抗議しましょう」などとかなりムチャクチャなことを書かれました。

○寄せられた激励

 しかし、私も躊躇したんですけど、勇気をだして、ひどい反応についてマスコミに書いてもらいました。そうすると、さすがに記事を読んだ国民や住民のみなさんから、わっと激励、応援メールが寄せられました。住民のみなさんのバランス感覚が如実にはたらくなあと思ったんですけども。賛成意見は激励が多かったです。「抗議に負けずがんばって下さい」、「議会に敬意を表します。誇りをもって貫いてください」、「閉塞社会よりは、多様な人にひらかれた社会を。障害者、女性、マイノリティを排除せず、多様性を認める社会を」といったご意見です。大阪の人からもたくさんもらいました。17歳の方からも来ました。

○一回限りの住民投票ではなく ―共生の課題―

 先日もブラジル人の方と話をしました。部落解放運動の方でも、この秋の研究会ではじめて分科会で外国人問題をとりあげ、初めて外国人の方を呼んで話を聞いたそうです。人権擁護審議会もそうです。言葉のしゃべれない、文字がわからないブラジル人の場合、人権問題は深刻です。アメリカには英語がしゃべれないアメリカ人がいっぱいいますが、日本もそうなってきたわけです。体が悪くて訴えても通じない、といったことが起こります。
 言葉ができないブラジル人が怪我しても医者に行けない、それこそ究極の人権問題であり、人権問題の原点だと思います。そしてまだ解決できていないわけです。
 先日、言われました。役所の中で、例えば、「住民課」をローマ字で書くだけでもいいのだと。ポルトガル語でなくても、せめてローマ字で書いてあれば、会社の雇用主から「住民課へ行ってこい」と言われた人が助かります、ということです。
 一回限りの住民投票じゃなくて、外国人の住民の方とどうやって地域で共生していくのか。何をやっていったらいいのかをこれからも考えていきたいと思っています。

 

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