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在間 秀和さん
弁護士 「裁判員制度は外国籍住民をどう受け入れるのか」2003年11月21日
2003年度第3回
多民族共生人権啓発セミナー |
裁判員制度とは
「裁判員制度」という新しい制度が来年度の通常国会に提案されることがほぼ決まっています。日本の刑事裁判制度が今後大きく変化する可能性があると思います。
まず裁判員制度とは何なのかということです。「陪審員制度」となると皆さんも大体のイメージをもたれるかも知れません。法廷ものの映画などでたまに登場します。一般市民から選ばれた何人かの陪審員が被告人の有罪や無罪を決める裁判制度です。アメリカやイギリスで採用されています。ドイツやフランスなどの「参審員制度」はあまり知られていません。これも一般市民から選ばれたいわば素人裁判官(参審員)が職業裁判官と一緒に裁判する制度です。いずれにしても裁判手続の中でも判決という重要な手続に一般市民が何らかの形で係わるという制度です。
これに対し現行の日本の裁判制度は、職業裁判官だけが裁く制度です。果たしてそれでよいのかということから、以前から司法への市民参加が議論されてきました。
「主要先進国8カ国」即ちG8中7カ国が司法への市民参加の制度を導入しています。アメリカ、イギリス、カナダ、ロシアの4カ国は裁判官1人に対し陪審員12人の陪審員制度をとっています。他のヨーロッパ諸国では参審員制度がとられています。フランスでは裁判官3人に参審員9人、イタリアでは2人対6人、ドイツでは3人対2人という構成です。ドイツの場合、参審員が過半数を割っており参審員の意味がないとして批判を受けていますが、日本の場合はそもそも市民が参加できる裁判制度にはなっていないわけです。G8では日本だけです。
しかし、あまり知られていませんが、かつて日本にも陪審法が制定され1923〜43年の20年間陪審員制度が実施されていた事実があります。1943年4月1日に陪審の停止に関する法律が制定され、現在も停止された状態のままになっています。
今の日本では検察審査会制度や、最高裁判事の国民審査制度が司法に市民が関与できる手続と言われていますが、誠に不十分なものです。最高裁判事の国民審査にしても、どういう人か分からない裁判官について、総選挙のときだけ投票が行われ、過半数の人から×を付けられた場合にだけ罷免される制度です。これまで罷免されたケースはありません。ほとんど機能していない制度ということができます。
今日本で採用されようとしている「裁判員制度」は、殺人や強盗という重大犯罪についての刑事裁判に、市民から選ばれた「裁判員」が職業裁判官と共に判決手続に加わる、という制度です。どちらか言えば基本的には参審制に近い制度と考えて良いでしょう。
裁判員制度法案の問題点
2004年の通常国会に提案が予定されている裁判員制度についての法案の主要な問題点は次の7点にあると言われています。
1.裁判官と裁判員の人数について
日本における職業裁判官だけで裁くといった弊害を何とか是正するために市民参加を、という趣旨からすれば、裁判官と裁判員との割合においてはできるだけ裁判員を増やすべきだ、という意見が強く出されています。今のところ、まだ確定はしていません。試案としては裁判員が裁判官の「2倍」という意見が出されていますが、それでは不十分として、日弁連では3倍以上という意見を出しています。市民の立場で裁判官に対等に発言をしようとすれば、やはり多数の市民の存在が必要という発想です。
2.評決をどうするかの問題
仮に裁判官3名、裁判員4名とした場合、職業裁判官全員が有罪、市民裁判員全員が無罪という意見となれば、市民裁判員が勝つことになります。ですから、双方の人数の割合とも関連しますが、評決方法を単純な過半数にするのか、裁判官の意見が最低1名は必要とするか、等議論されているところです。
3.どのような事件が対象になるのか
今のところ、死刑・無期懲役が法定刑とされている犯罪や、故意の犯罪により被害者を死亡させたような重大刑事事件が対象とされるとの意見が出されていますが、まだ様々な議論がされているところです。まず、軽微な事件から始めるべき、との意見も言われています。
4.裁判員の選定方法
今のところ出されている案では、「衆議院議員の選挙権を持つ25歳以上の者」とされています。日弁連の案では、「普通地方公共団体の議会議員の選挙権を有する20歳の者」という内容です。この点は重要な問題で、本日の主たるテーマですので後に触れることにします。
5.裁判員の義務について
現在の案では、裁判員として関与した人は、係わった裁判での秘密を一生漏らしてはいけない、という義務を負わされることになっています。いわゆる守秘義務の問題です。万一秘密を漏らした場合は「秘密漏洩罪」で罰則を受けることになります。この規定についても、処罰を前提に生涯守秘義務を課すことの是非が議論されています。
6.控訴審について
仮に一審で裁判員制度のもと職業裁判官と裁判員の判断で判決がされ、そしてその結論が無罪となった場合、検察官が控訴することが十分考えられます。舞台は高等裁判所に移ります。しかしその高等裁判所での審理が職業裁判官だけでなされるとなれば、一審で裁判員が係わった意味がなくなる、ということも十分に考えられます。一審の判決で、裁判員の多数意見に基づいて無罪とされたのに、高裁では職業裁判官の意見だけで有罪と逆転されてしまうことがあり得るわけです。アメリカの陪審員制度では、一審の判決で陪審員が無罪の評決を出せば、検察官は控訴することはできない制度となっています。ところが日本では、以前から一審が無罪になっても検察官が控訴することができる制度になっており、今想定されている裁判員法案でも、その点は変わらない内容です。こうなれば、折角裁判員制度が採用されてもその趣旨が貫かれない、という批判がされています。
7.マスコミ報道に対する規制
裁判員制度が導入されると、裁判員への影響の配慮から、特に刑事事件の報道が厳しい規制にさらされるとしてマスコミがかなり神経をとがらせています。報道の自由との関係で、大きな議論がされているところです。
裁判員制度への外国籍住民の参加
そこで本日の本題である、裁判員制度と外国籍住民との関係の問題です。前述の「4.
裁判員の選定方法」即ち「誰がどのようにして裁判員を選ぶのか」という問題です。今出されている案では「衆議院議員の選挙権を持つ者」と,日本国籍者のみを対象にしています。この問題は、必然的に在日外国人の参政権問題と重なってきます。
参政権問題について、1995年2月最高裁の判決では、「地方自治体の議会議員選挙において、国籍条項を撤廃するかどうかは、公職選挙法という法律レベルの問題であり憲法上は国籍条項の廃止も可能である。」との判断が示されました。大変大きな意味のある判決でした。在日外国人の参政権の問題を考える上での率直な疑問は、「納税の義務」を課しながら「選挙権」を認めない、ということの矛盾です。在日外国人が税金を負担しているにもかかわらず、選挙に参加できないという不合理はどのようにして正当化されるのでしょうか。ですから、参政権以外の面、例えば住民投票制度などでは、自治体によっては、外国人を含むその自治体に居住する全ての人に門戸を開こうという動きも実際に出てきています。その先には、在日外国人の地方参政権の実現の問題があると思います。
裁判員制度は、参政権問題と全く同じ問題を抱えています。今の案では参政権と同じく「日本国籍」が当然の如く前提にされています。この考えは、要は、在日外国人は、如何なる立場の人であれ、「裁かれる側」であり、決して「裁く側」ではない、と言っているに等しいものです。先ほど紹介しました日弁連の対案は、在日外国人について、まず地方参政権を実現してから裁判員制度にも、という発想です。それはそれなりに意味があるとは思われますが、やはり裁判員制度の問題としてもっと議論をすべき問題だと思います。
結論
このままでは参政権と同じように裁判員制度から在日外国人は排除されます。本来はやはり裁判員制度に日本国籍を条件とする考え方は誤りで、「住民」を要件とするだけで十分のはずです。日本では伝統的に、犯罪を犯した人間を国家が裁くという刑事裁判での発想から抜け切れず、裁判員制度においても裁く側には日本国籍を要求することが当然のように語られています。こうした発想はいわば民主主義の基本にかかわる問題と思います。
*(その後の経過)
その後、2004年4月23日、問題の裁判員法案が衆議院を通過しました。その内容は、職業裁判官の数と裁判員の数は3:6とされ、過半数で有罪・無罪と量刑が決められるが、裁判官と裁判員のそれぞれ1名以上の賛成がなければならない、とされています。そして裁判員制度が採用されるのは一審だけです。また、懸案の裁判員の選任の問題については、「衆議院議員の選挙権を有する者」から選ばれる、とされたままです。衆議院ではほとんど実質的な論議はされず、「守秘義務違反」の罰則が少し緩和される、という修正にとどまっています。裁判員制度の基本的な問題点は議論されないままに現在参議院に送られている状況にあります。
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