多民族共生人権教育センター
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講演 中山徹さん「地域福祉が強調されているいま、在日コリアン高齢者の地域生活を考える 〜2003年大阪市生野区在住の在日コリアン高齢者生活実態調査を通して〜」

中山 徹 さん

中山徹さんプロフィール

 1951年東京生まれ。1974年中央大学経済学部経済学科卒業、1986年中央大学大学院経済学研究科博士課程満期退学。現在は大阪府立大学社会福祉学部教授。主要論文に、『高齢在日韓国・朝鮮人』(共著、お茶の水書房、1997年)、『欧米のホームレス問題上・下』共編著著、法律文化社、2002〜2003年がある。

(大阪府立大学 社会福祉学部教授)

「地域福祉が強調されているいま、在日コリアン高齢者の地域生活を考える
〜2003年大阪市生野区在住の在日コリアン高齢者生活実態調査を通して〜」

2004年9月2日
第2回 多民族共生人権啓発セミナー

 ただいまご紹介にあずかりました大阪府立大学の中山といいます。私はもともと在日外国人をめぐる研究をしていたわけではありません。以前は、銀行労働の問題等を手がけていましたが、大阪府立大学社会福祉学部に赴任したこともあって、だんだん大阪をめぐる社会問題に関する研究をするようになりました。この在日の問題については12年くらい取り組んでいます。

調査までの経緯

中山徹さん 私が関わり始めた1991年頃の時点では、在日高齢者をめぐる問題というのは、ほとんど調査や実態が解明されておらず、全体的にはどうなっているのかほとんどわかっていませんでした。その後、2000年に社会福祉法が改正された際、地域福祉計画を各都道府県、あるいは各市町村が立てるということが明示されました。そういった流れの中で地域福祉をとりまく環境が変わったということが在日高齢者問題を考える場合の1つのターニングポイントになっていると思います。さらに現在、年金改革の問題が非常に盛んに新聞等で議論されています。年金の空洞化や障害者における無年金の問題がクローズアップされていて、国民年金法の国籍条項をめぐる問題の中で発生してきた在日コリアンあるいは外国籍住民の無年金問題も取り上げられなければならない時期にきています。
 介護保険法の成立や地域福祉計画の策定など、社会福祉をめぐる問題が改めて問われるようになっており、在日外国人問題について考え直すためには彼らの労働や生活、あるいは福祉サービス等の利用についての実態を調べる必要があるということから今回の調査を行うことになりました。

統計からみた外国籍住民

(表)外国人登録者数上位都道府県の国籍(出身地)別の割合 2003年度末現在の国籍別外国人登録者数の推移と外国人登録者数上位都道府県の国籍別の割合を見ると、全国では韓国・朝鮮籍の方が32.1%、東京は韓国朝鮮籍の方が29.4%です。愛知県ではブラジルの方が34.3%となっています。大阪府の場合、韓国・朝鮮籍の方が70.5%というのが特徴です。次いで多いところは京都府と兵庫県です。これを見ると、近畿圏における外国籍住民の問題というのは主に韓国・朝鮮籍の方をめぐる問題だという事が分かります。
 もうひとつ重要なのは、年齢別の特徴です。65歳以上の外国人登録者数を見てみると、日本人の場合男性が15.9%、女性が21.0%、韓国・朝鮮籍の方が男性は12.0%、女性は13.8%です。これに対して、中国の方の外国人登録人口は近年激増していますが、65歳以上の割合は男女ともに3%未満です。ブラジルの方も65歳以上というのは1%未満です。つまり、オールドカマーとニューカマーには明確な年齢別の差があるということです。大阪市国籍別外国人登録者数と外国籍住民の割合という表があります。この表を各区別に見ると、生野区住民の総数が138,667人、外国籍住民が34,749人です。これは外国籍住民が25.1%いるということです。このような区は他にありません。つまり、生野区が様々な問題を考える時には人口の4分の1は外国籍の方だということを認識したプローチが必要だということを意味しています。
 例えば、500メートル四方の生活空間の中にどの様なものが存在するかということが、その地域の豊かさや高齢者に対する便利さを示す目安になっています。生活空間という点から見ますと高齢者の生活空間と働き盛りの30〜50代の生活空間とは決定的に違うのです。大阪市内でも西区の56.5%を筆頭に中央区、港区などのビジネス街では、ブラジルやフィリピン、アメリカなどのニューカマーが多い地域になります。ところが生野区では韓国・朝鮮籍の方を除くニューカマーの人口比は5.1%しかなく、それぞれの区にはかなり特徴があるということが分かります。それぞれの地域というものをどう捉えていくのか、あるいはその地域でどのようなアプローチが必要なのかを考えることが求められているのではないでしょうか。

公的文書から見えるもの

中山徹さん 近年、外国籍住民に対して国がどのように考えているのかを示す文書として『「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」報告書』があります。ここでは、従来の社会福祉の考え方では捉えきれない問題が発生し、見過ごされるようなことがあれば、それは社会的排除の一形態であり、ソーシャルインクルージョン(改めて社会福祉のあり方を考え直すこと)をしなければならないと書かれています。また大阪市の文書を見ると、外国籍の住民が非常に多いことを市が認識していて、「大阪市外国籍住民施策基本指針」という文書の中で「外国籍住民の人権の尊重」、「多文化共生社会の実現」、「地域社会への参加」を目標に掲げています。また、外国籍住民の人々の抱えている問題も様々な領域に渡っているため、施策も「『内外人平等の原則』をふまえた行政サービスの充実」、「教育」、「相互理解の促進」、「地域社会への参加」、「外国籍住民施策の推進にあたって」という5つの項目に分けて書かれています。この中の1−(3)公的年金の欄に、国民年金の加入のためにパンフレットを7つの言語で作ったことが書かれています。しかし書き方によっては外国籍住民の方を年金から遠ざけてしまう可能性があります。国民年金は25年入っている事が必要ですと書いてしまうと、「私はだめだわ」と思ってしまう外国籍の方が出てくるというような事です。もっと詳細に「何年に日本に来た方についてはこういう可能性がある」などとか書かないと始めから加入しない人が出てくるのです。

なぜ今まで地域別実態調査が行われなかったのか

 各種いろいろ統計というものがあります。国勢調査というのが国内最大のもので、2000年の調査が最新です。この調査で外国籍住民の統計的なものは出てきますが、在日コリアンの高齢者についてある地域に限った調査というのは国ベースではほとんどなされた事がありません。また、介護保険をめぐる問題など政策的な検討をする時には必ず住民の生活実態調査がなされます。その際に大阪市は外国籍住民の方も含めて調査を行っていますが、出てくる結果表は日本国籍の方と外国籍の方を混ぜて集計されています。そのため、在日の外国籍の人々の生活実態が浮き彫りにされる事はありません。特に生野区の場合は人口の4分の1が在日韓国・朝鮮人です。彼らと日本人の差異がほとんどない場合は問題はありませんが、実態が解明されていないため施策を考える時には具体的な実態調査が必要だと思います。庄谷先生と1996年と2002年に在日高齢者の社会福祉サービスの利用状況に関して大阪府で大規模な調査を行いました。行政サイドでも、介護保険との関連で、高齢者の調査がなされています。その調査対象には在日外国人の方も入っていますが、全体の中に在日外国人の方が紛れ込んでいるため、在日外国人の実態がわからないという問題があります。
 在日外国人の調査というのは、いろいろ難しい側面をもっているので、これまで実施されなかったと考えていますが、今回、生野区で、大量観察調査をしたというのは重要なことであったと考えています。
 なぜ大変なのかといいますと、日本人を調査する場合、通常は住民基本台帳もしくは選挙人名簿から調査対象者を抽出します。ところが外国籍住民の方たちの住所等の情報というのは住民基本台帳には出ていません。ですから誰がどこに住んでいるのかという正確な情報を知る術がないのです。地域住民の現住所を役所は全部知っているだろうと言う考えは間違いなのです。もう1つの問題は、普通の世帯台帳のように一緒に書かれている世帯台帳といったものを僕らは閲覧できないため、民族団体の協力によって、対象者を選定しますが、夫婦別姓であるため、住所と電話番号でソートをかけ、ご夫婦であろうという推測をするといった作業が必要となります。こういう作業を行った上で調査を行わないと高齢者の生活がなかなか見えないのです。こういった理由で二重三重の手間がかかるのです。
 今回の調査では、韓国の方たちの敬老の年齢が70歳ということから、70歳以上の方のご理解を頂いて回答をいただきました。日本の場合ですと行政が行う高齢者調査の回収率は通常8割くらいとかなり高いです。ところが在日外国人の方の調査では、回収率は通常の回収率をかなり下回ります。1つは郵便物が届かないということです。もう1つは、見てもわからないので放置されてしまうというケースがたくさんあります。そこで相手に調査票を預けておいて後でアポイントをとって訪問するという方法で調査を行いました。その結果として約300人の調査ができたというわけです。

調査から見えてくるもの

中山徹さん まず初めに、回答者は女性が多く、世帯の状況は圧倒的に単身世帯が多数でした。
その次に特徴的なのは収入源です。収入源として自分の公的年金と答えた人が27.1%です。つまり残りの7割の方は年金がないということです。このため必然的に子どもからの金銭的援助の割合が大きくなります。さらに、生活保護世帯が8.8%。通常は1,000人のうち何人かという割合ですので、非常に割合が高くなっています。いろいろな要因があって大阪は全国の中でも生活保護率は高いのですが、在日外国人の生活保護率も高いのです。次いで在日外国人給付金というのが20.5%です。仮に同じ調査を日本の方に行った場合、おそらく自分の公的年金が圧倒的に多く、次いで配偶者の年金、さらに家族の収入、その他収入という風になると思います。収入源に大きな違いがあるということを知っていただきたいと思います。
 単身世帯の1ヶ月の所得はどの程度なのかというと、5〜10万円未満と5万円未満が同じ割合で34.8%になります。15万円未満の方も含めるとさらに10.9%足してしまいますから80%以上の方が生活保護水準を下回っているというふうにみることができます。夫婦の場合だと多少増えていきますけれども、この場合も10万円未満は完全に生活保護基準以下です。この調査結果を見る限り、特に在日の単身、夫婦世帯の場合は所得が非常に低いことがわかります。しかし当然のことながら、生活保護基準以下の収入の世帯でも、家族が別にいる、資産(小さい持ち家や小額の預貯金など)があるなどの要因で生活保護を受給していない方たちもいます。
 もう1つこの調査でわかった重要な事は、識字の問題です。この問題は男性と女性とで決定的に違います。男性の日本語の識字率は比較的高いです。一番重要なのは、日本語もハングルも読めなという人が29.1%もいることです。つまり、郵便物が届いても読むことができないという事が分かります。さらに、読めるという事が理解できる事と同じではありません。識字の問題は、「外国籍の人だから日本語のやりとりは困難だろう。それならば母国語で表せばいい」といった単純なものではないのです。  
 このような問題があることを踏まえて、地域生活の問題を考えたいと思います。地域情報はいろいろな形で廻ってきます。その多くは郵便や回覧板など文書での情報です。しかし先述のような問題がある場合、地域を廻る文章上のネットワークというのは充分に機能していない可能性が大きい事が分かってきました。
 次に、生きがいや楽しみ、地域生活でどのようなことに参加しているのかを見ると、公園で過ごすというのが13.1%です。その他は、友人の所に行く、銭湯に行くなどです。銭湯に行くのは自宅に風呂がない家が多いという住宅事情も関係していると思います。また、地域の高齢者向けのいこいの家などの施設には、ほとんど足を向けていないという事が改めて確認されました。理由としては、同胞のいない中に一人で混ざるのが嫌だということが強いように思われます。現在の高齢者の場合、多文化共生化はなかなか難しい問題となっているのではないでしょうか。
 介護保険については、サービスの周知度も口コミで情報が広がっているもの以外は低くなっています。また、無年金者が多いため、年金からの保険料の天引きが無いことや、所得が低いことが原因となって保険料の未払いの方もみられ、そのことがばれると困るという懸念からサービスを利用していない方もおられます。
 これらのことをみていくと、やはり所得が低い事が非常に重要だといえます。これに関する大きな問題は無年金の問題です。1986年の4月1日現在60歳以上の人は制度的に全員が無年金です。さらに1982年4月、国民年金法の国籍条項が取れたとき既に35歳以上だった人(調査対象者では70〜77歳の人)も高い割合で無年金者です。そのため、その下の世代も無年金者として登場する可能性があります。今後、制度的無年金者と予備軍というのが無視しきれない存在として浮かび上がると考えられます。

今後の地域社会とは

 私が調査した時には、在日外国人が利用できる社会的資源は何もありませんでしたその後、1997年に、少し新しい試みが始まりました。それからもう既に6年〜7年経ちます。今は、まだ何にも動いてないのが現状ではないでしょうか。何か変わったというと、外国人向け施設が出来て、目が向いてきたというぐらいではないでしょうか。
 住民概念を豊かに捉えた、本当にきめの細かいサービスを行えるような施策や仕組みを作ることが求められています。これは、行政だけに任せて受身になるのではなく、地域の中で連帯を強め、ボランティアや様々なNPOと連携して具体的に作っていかなければならない課題と思います。

 

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