多民族共生人権教育センター
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講演 朴一さん「FTA交渉で再燃する外国人労働者受入論と外国籍住民施策の現状」

朴 一(パク・イル)さん

朴一さんプロフィール

1956年兵庫県尼崎市生まれ。1988年同志社大学大学院博士課程修了。現在、大阪市立大学大学院経済学研究科教授。大阪市の外国籍住民施策有識者会議や神戸市の人権教育・啓発懇話会の各委員を務め、多文化共生の立場から提言を行う。

(大阪市立大学経済学部教授)

「FTA交渉で再燃する外国人労働者受入論と
外国籍住民施策の現状
〜どうすればアジア人との共生は可能か〜」

2006年2月3日
第4回 多民族共生人権啓発セミナー

外国人労働者受け入れ論の現状

朴一さん 最近日本では、外国人労働者の受け入れ議論が活発化しています。その背景の1つには、日本とアジア諸国とのFTA(自由貿易協定)交渉が本格化する中、アジア諸国から「日本の商品を受け入れる代わりに日本の労働市場を開放して下さい」という声が上がってきたことが挙げられます。実際、一昨年にはフィリピンとのFTA交渉がほぼまとまり、フィリピン側は日本製品に対し市場を開放する見返りに、フィリピン人の看護師や介護師の受け入れを日本に求めました。それに対し日本側は、日本語をある程度習得し、在留資格、看護師免許を取った人のみを受け入れようと考えています。
 外国人労働者の受け入れについては、最近まで受け入れ反対論と受け入れ賛成論が錯綜していました。受け入れ反対論の中心をなすのは、「外国人が来たら日本の治安が悪くなる」という意見です。代表的な担い手の1人が石原慎太郎東京都知事です。最も顕著な例として挙げられるのが、2000年4月に陸上自衛隊の式典で行った演説の中の、「今日の東京を見ますと、不法入国した多くの三国人、外国人が凶悪犯罪を繰り返している。……こういうものに対処するためには、なかなか警察の力をもってしても限りとする。ならばですね、そういう時に皆さんに出動願って、都民の災害の救急だけでなしに、治安の維持も、1つ皆さんの大きな目的として行って頂きたい」という発言です。
 ここでは、戦後も日本に留まった在日コリアンや在日中国人に対する蔑称として使われていた「三国人」という言葉を持ち出したことももちろん問題になったのですが、もっと恐ろしいのは、その演説の内容です。つまり、不法入国した人全てが凶悪犯罪を繰り返していて、もはや警察の力では対応できないから自衛隊の力を使ってその人たちを全部駆逐しましょう、というようなことを言っているわけです。
 また、その伏線として、特に1990年代後半から、警察が不法滞在外国人の増加による治安悪化を強調する宣伝を流し続けてきたことが挙げられます。例えば1998年の『警察白書』に、「大量の不法滞在者の存在がわが国の治安に対する重大な脅威になる」という一文を載せています。つまり、警察は完全に不法滞在外国人を敵視し、重大な脅威であると考えているわけです。

 しかし、外国人犯罪の実態については、冷静に吟味する必要があると思います。不法滞在者による凶悪犯罪(殺人、窃盗、放火、強姦)の検挙数の推移に関する警察の調査(1996〜2002年)を見ますと、凶悪犯罪で検挙された不法滞在者は毎年130人〜190人程度です。数値的に言えば、全体の2%程度で推移しています。従って、不法滞在者による凶悪犯罪の検挙数が増加傾向にあるとは一概には言えないわけです。不法滞在者の中で凶悪犯罪を起こす人はごく少数で、ほとんどの人は零細企業で真面目に働いているというのが実状です。
 受け入れ反対論の中に見られるもう1つの議論は、「日本のような人種差別の強い国に外国人が住むと、必ず差別の生贄になる。従って、外国人は日本に住むべきではない」という議論ですね。これは非常に分かりやすい議論なのですが、差別する側の責任を回避しているわけです。日本人の差別を容認して、「差別を受けたくなかったら、自分の国に戻りなさい」というのでは本末転倒だと思います。

朴一さん しかし、こうした受け入れ反対論は、日本ではもはや説得力を持たなくなってきています。FTAで外国人を導入するという合意がなされている現実もありますし、加えて、少子高齢化が進む中で、外国人を受け入れないともうこの国は成り立たないということを日本人も自覚しなくてはなりません。
 厚生労働省の調査では、2025年には介護を必要とする高齢者が現在の280万人から520万人に増え、2010年にはホームヘルパーが58万人必要になると言います。ところが、現在はホームヘルパーが17万人しかいないのです。その上、きつい労働の割に報酬が少ないということで、介護の仕事を志望していた若者の中から離職する人が続出しています。そのため、不足したホームヘルパーを外国人で補充せざるを得ないという状況に日本は直面しています。それで、フィリピンやタイから介護師を導入しようということになってきているのです。
 不足するのはホームヘルパーだけではありません。深刻な出生率の低下で、日本の人口は2006年から減少に転じていきます。労働力人口(15〜64歳)について言えば、2000年に約8600万人いたのが50年後には5400万人にまで減少するという推計データもあります。このままでは、労働力人口の大幅な減少で税収が激減し、社会保障の財源を獲得できなくなります。
 そのため、日本政府は今まで優秀な外国人だけを入れようと考えてきましたが、もうそれではダメだということにやっと気づいて、一般外国人労働者の受け入れを前向きに検討するようになりました。つまり、今までは受け入れ反対派と賛成派が議論してきましたが、もう次の段階として、受け入れ必然論に変わってきているわけです。

外国籍住民施策における課題

 ところが、今の日本には大量の外国人を受け入れるだけのインフラが整っているのかという問題があります。課題はたくさんありますが、的を絞って言いますと、まず外国人に対する社会保障を整備しなければいけない。もう1つは、外国人労働者の子どもたちに平等な教育機会を与えられるようにしていくと同時に、将来の雇用の問題をどのように考えていくのかということです。
 まず社会保障の問題について、現在最も改善が望まれている課題の1つが、定住外国人高齢者、障害者に対する社会保障の問題です。実は、定住外国人が国民年金に加入できるようになったのは、社会保障での内外人平等を定めた難民条約が日本で発効した1982年1月1日以降のことです。但し、それによって全ての外国人に年金が支給されるようになったわけではありません。国籍条項が撤廃されると同時に、国籍条項撤廃の効力は過去に遡らないという付則条項を定められてしまったために、制度上25年間の加入期間を満たせない35歳以上の外国人、1982年当時20歳を超えていた障害者は無年金の状態に据え置かれてしまったのです。1959年の国民年金法施行、1972年の沖縄返還などの際には、加入期間を短縮するなどの特別措置を設けることによって無年金者が出ることを防いだのですが、1982年に国民年金法の国籍条項が撤廃された際には、こうした特別措置を一切設けなかったのです。そのため、国民年金法から排除された外国人は障害者が約5,000人、高齢者が約3万人いると推計されています。
 そんな中、無年金の外国人障害者や高齢者への特別給付金を設ける自治体が現在増えてきてはいますが(2003年現在で750)実際のところ十分な措置とは言えません。金額的に見ても、一般の老齢福祉年金が月額3万4000円程度、障害基礎年金が月額8万3000円であるのに対し、無年金の高齢者が自治体から受け取るのは月額1〜2万円程度障害者が受け取る給付金は月額3〜5万円です。従って、無年金外国人に対する自治体の給付金というのは、老齢福祉年金や障害基礎年金の欠落を十分に補填するものではないわけです。
 先ほど述べたように、今後日本で少子高齢化が進む中で、厚生省は日本人高齢者の世話を外国人に期待しているわけです。ところが一方で、日本にいる外国人高齢者の世話をしようとしない。このようなやり方はいかがなものか、ということを皆さんに真剣に考えて頂きたいと私は思います。

朴一さん 次に雇用の問題ですが、日本は戦後ずいぶんグローバル化が進み、外国人に対する就職差別も改善されてきたという印象があります。しかし、全体で見れば、依然として差別は続いているという状況があります。資料の『毎日新聞』(2000年8月26日付)を見ると、「『国籍で就職差別』3割以上という見出しで、大阪府内の公立高校に通い、4年制大学を卒業した外国籍生徒の約3割が「国籍で就職差別を受けた」と回答したということを一面で報じています。そして、具体的な事例として「履歴書の本籍欄を見ると対応が露骨に変わり不採用になった」、「帰化の意思を問われ、『ない』と答えると、面接が終わった」と言ったことが挙げられています。
 また、地方自治体においても、国籍条項を設けて外国人職員の参入を妨げてきたという実態があります。実際には、日本の国家公務員法や地方自治法には「外国人は公務員になれない」といった規定は一切存在していないのです。ただ、1953年に内閣法制局が出した「当然の法理」、つまり「公権力の行使、公の意思形成に参画するためには日本国の国籍が必要」という一本の通達がまかり通ってきたわけです。

 そんな中、2005年1月には、国籍を理由に管理職任用試験への受験を認めなかった東京都の措置について、最高裁が「合憲」との判断を下したことがありました。訴えていたのは東京都の保健師で在日コリアン2世の鄭香均(チョン・ヒャンギュン)さんで、1988年に都に採用され、1995年に上司の推薦で管理職任用試験に申し込んだところ、「日本国籍が必要」と言われて試験を受けることが出来なかったのです。それに対し、彼女は「日本国籍がないという理由だけで管理職任用試験を拒否したのは、法の下の平等を定めた憲法第14条に違反する」として訴訟を起こしました。そして、1996年の第1審判決では退けられましたが、1997年の第2審判決では「在国外国人の任用が許される管理職と、そうでない管理職とに区別して考えるべきだ」ということで、鄭さんの主張が認められたのです。ところが、最高裁では判決が覆され、重要な決定権を持つ管理職への外国人の就任は、日本の法体系の下で想定されておらず、外国籍者を管理職試験から排除しても憲法に反しない」とされました。外国籍公務員の採用職種や昇進について、自治体の裁量を広く認めるという判決が下されたわけです。
 もともと外国人が地方公務員の全ての分野で就労機会を奪われていたわけではありません。例えば医師、看護師、保健師などの専門職については、多くの自治体で外国人が採用されており、外国人管理職者もかなりいます。さらに、高知県では「警察を除く全職種を開放して昇進についても一切制限を設けない」としており、長野県では田中康夫知事が「副知事までは外国人にしてもいい」という発言をしています。
 今回の最高裁判決を受けて、今後日本の自治体は、東京都のように外国人の採用を一部専門職に限定し、管理職への昇進を認めない所と、高知県や長野県のように、業務内容や昇進に制限を設けず、外国人を積極的に登用しようという所に両極分解していくと思います。おそらく企業にも同じ傾向が出てくるのではないでしょうか。

 問題は、どちらのやり方が少子高齢化時代にふさわしいかということです。私は、外国人労働者を使いこなせない企業や自治体はおそらく脱落するだろうと思うのです。わかりやすい例でいうと、プロ野球で鍵を握っているのは外国人選手だと言えます。阪神タイガースが優勝した1つの鍵は、やはり外国籍の桧山選手やウィリアムス投手が活躍したことだと思います。これに、日本人選手がうまく絡んだわけです。
 高齢化の進行による労働力人口の減少というのは、自治体においても深刻な問題です。こうした日本の未来を展望するとき、外国人の公務就任権を制限してきた「当然の法理」についても、見直さなければならない段階に来ていると私は思います。全部撤廃しろ、とは言いません。プロ野球でもうまく「3人枠」というのを作っています。そのうち同時にプレーできるのは2人までで、後の7人は日本人でないと面白くないわけです。
 これを自治体に当てはめた場合、目安になるのはやはり人口比率だと思うのです。例えば、大阪市では外国人が占める人口比率が約5%です。従って、少なくとも市職員の5%は外国籍住民から採用する、ということについては議論の余地があるのではないでしょうか。外国籍住民が5%いるわけですから、その人たちにサービスを提供する上でも、外国籍の人たちを市役所のメンバーとして迎え入れることは必要ではないかと思うのです。
 企業においても、アメリカでは、大半の企業が一定の比率でマイノリティを重要なポストに就けています。例えば、ゼロックスという会社では、副社長270人のうち26人を黒人から登用しています。そういうものを作って共生の道も探りながら、うまく外国人も使って、日本の企業や自治体を発展させていくことが今求められているのではないでしょうか。

 

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