2006年度 第2回 多民族共生人権啓発セミナー
テーマ:外国人の子どもの不就学ゼロをめざして
〜「協働」から「連携」へ 岐阜県可児市の試み〜
講師:小島 祥美 さん (愛知淑徳大学 助教)
○多文化な子ども達との出会い
私は東京・下町で育ちました。同級生には本名を名乗っているコリアンの子どもたちが多く、そんな中で小・中・高と一緒に生活してきました。1994年に埼玉県の公立の小学校に赴任しました。その時に初めて外国人の子ども達、特にニューカマーと呼ばれる子どもたちに出会いました。そのときの子どもたちとの出会いと、自分自身が幼少の頃育った環境とが重なって、自分のこれからの人生は、そうした子どもたちのことを考え、改善できるようなことをしたいと思うようになりました。その後、阪神・淡路大震災の後にボランティアとして神戸の鷹取カトリック教会に行き、2003年3月までの7年間NGO活動に参加していました。
震災後の切迫した支援活動が落ち着いていく中で、学校に行きたくても行けない子どもたちに出会いました。ある時、地域の方たちから「昼間、アパートに外国人の子どもたちが集まっている。ちょっと様子をみてあげてくれないか」という電話がありました。そのアパートへ行ってみると、電話の話の通り子どもたちがたくさんいました。話しかけてみると、返ってくる言葉がポルトガル語でした。ブラジルもしくはペルーの子どもたちだったと思います。「何しているの?」と聞いてみ
▲講演する 小島 祥美さん
たら「1日、お父さんとお母さんの仕事の帰りを待っているのだ」と言いました。順に歳を聞いてみると、3歳から10歳くらいの子どもたちが20人ぐらいいたのです。この子たちを学校に連れて行きたいと思いました。元は小学校の教員だったということもあり、教育委員会に連絡すると「保護者が手続きに来ない限り、教育委員会では手続きしません」という答えでした。恥ずかしながら勉強不足で、日本の法律では外国人の子どもたちが就学義務の対象ではないことをそのとき初めて知りました。
このことをきっかけに大阪大学大学院に入学し、外国人住民が置かれた教育環境についてもう少し勉強することにしました。その時、日本の公教育において外国の子どもたちの就学の権利が保障されていないという問題、外国人が多く暮らす地域では不就学の問題が大変深刻化しているということを知りました。勉強を進めていくうちに、行政から「見えない」子どもたちを「見える」ようにするためにはどうすればいいのだろうかと悩みました。どこの市町村にいっても、外国人の子どもたちが自分たちの町に何人住んでいて、何人の子どもが学校に行き、あるいは行っていないのかということが分からないというのです。私も神戸市や兵庫県の方にいろいろ提案をしましたが、やはり「就学義務の対象ではない」という理由で取り合ってもらえませんでした。今の実態を見せない限り、日本という国は絶対変わらないと思いました。そこで地域ごとに外国の子どもたちが何人いて、何人学校に行っている、何人学校に行っていないということを研究したいと考えるようになりました。
そして、ある地域に暮らす外国人住民全ての方から話を聞くことができるよう研究できそうな地域を探しました。そこで出会ったのが岐阜県可児市でした。可児市は毎年外国人登録者数が増加していて、その多くがブラジル人です。近年はフィリピンの人も増加してきています。可児市では外国人登録者の約8割がブラジル国籍です。16人に1人が外国籍住民という地域で、ブラジル国籍者が多いことから、ブラジルの食材店やブラジル人学校などもあります。岐阜県・可児市の職員や関係者との度重なる打ち合わせの結果、2002年に岐阜県、県教育委員会、国際交流センター、可児市、市教育委員会、国際交流協会(民間のボランティア団体)と大阪大学とで、行政と民間と研究者による協働研究を実施しようということになりました。
○可児市での研究
この調査は、03年4月〜05年3月の2年間実施しました。実施に当たり、現地責任者として可児市に私が居住し、可児市国際交流協会に事務所を構え、全体の調査調整等を行いました。
2年間の研究の意義としては3つ挙げられます。1つ目は、共同研究を行った6団体の各関係者に毎月行政から「こういうことがわかりました」と報告していくうちに、初めはそれほど興味を持っていなかった人たちも、だんだんと関心を抱くようになってきたことです。2つ目は、多くの人が関心を持ったことによって、課題の共有ができるようになりました。そして3つ目は、私自身が地域に入らせて頂いたことによって、その地域に暮らす外国人住民の方々と直接話をすることができ、彼らが何を望んでいるのか、何に困っているのを理解することができたことです。そのとき地域で活動していたボランティアの方たちに調査の協力員として一緒に活動してもらうことで、その人たちが地域の抱える課題を認識し、そのことによって活動が活発化するということもありました。
今まで、外国人の子どもたちの不就学の調査というのは、いろいろな形で行われてきました。ところが、今までの調査は外国人の中でもその地域の中で生活している割合の多い国籍の方に調査対象を絞ったものがほとんどでした。しかし、法的根拠を考えた時、日本国籍を有していないすべての方たちを対象に考えない限り、この問題は解決しないだろうと考えました。そのため、可児市の調査では可児市に住む全ての外国人を対象にしました。
調査実施にあたっては、民族団体の方をはじめ、地域で外国人を雇用している企業やお店の方、地域の公・私立学校や外国人学校の先生たちなど、可児市に暮らすあらゆる人たちに「こういう研究を始めようとしています」ということをいろいろな方法でお伝えしました。それは、地域に暮らす人と協力して実施することによって何かが変わるのではないかという希望を持っていたからです。調査方法は、1軒1軒家を回ってお話をうかがいました。1回目は2003年4月1日現在の外国人登録、2回目は半年後の9月1日現在の外国人登録、3回目は2004年9月1日の外国人登録を使い、それぞれ283名、318名、370名の小学1年生から中学3年生までに相当する子どもたち全てを対象に行いました。国籍別に見るとブラジルの子たちが圧倒的に多く、次いでコリアン、フィリピンの子たちが多いという状況です。毎回調査の後には、お礼とともに「調査の結果こういうことがわかりました」ということを報告しに行きました。そのことで「研究のためだけではなく、何か自分たちの声を聞いてもらえるのではないか」という望みを持ってもらうことができました。その結果、地域の外国人住民の方々には積極的かつ協力的に調査に関わって頂くことができました。
調査の結果、明確になったことが3点あります。1つ目は、学校に行けない子どもたちが回数を重ねるにつれて増えていったことです。その国籍を見ると、ブラジルの子どもが多いというだけでなく、フィリピンの子ども、コリアンの子ども、インドの子どもたちの中にも学校に行けない子どもがいました。つまり、日本国籍を有していない子どもたちは国籍に関わらず就学の機会が保障されていないということです。そして、それはブラジルの子どもたちだけの問題と考えられてきましたが、実はそうではないということが明らかになりました。
2つ目は、子どもたちの就学状況です。外国人の子どもたちというと、いわゆる「一条校(学校教育法弟一条に定められた、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園のこと。)」が課題となりがちですが、私立の中学校や養護学校に行っている子どもたちもいました。外国人学校についても、ブラジル人学校だけでなく、インターナショナルスクールや朝鮮学校に通っている子どももいました。一口に学校に行っているといっても、いろんな就学形態があって、非常に多様であることが分かりました。
1、2回目の調査では、1年間の人の移動状況を見るために、同じ子どもたちを対象にしました。2回目の調査の時に学校に行っていなかった子どもたちが、1回目の調査の時にどういう状況だったのかを比べてみると、1回目に学校に行っていた子どもでも、2回目になると行っている子、行っていない子が出てきました。また、1回目に学校に行っていなかった子どもたちは2回目の調査でも学校に行っていない場合が多いという結果が出ました。たった5か月の間に、就学状況が非常に揺れているということがわかりました。今の時点では学校に行っていても、明日はどうしているか分からないということです。調査をすることで、そのような状況を数で示すことができました。
中学校からドロップアウトする子が増えていきました。その要因を見たところ、日本の学校を最後にやめた子どもたちの圧倒的多数が学習困難を理由としています。一方、外国人学校を最後にやめた子どもたちは、家庭的、経済的要因が強かったです。そして、不就学の子どもたちは圧倒的多数が13〜15歳です。東海地方は今も経済が活発な地域で、年齢さえごまかせば子どもでも働けてしまう所です。そのため、13〜15歳の子どもでも働きに行っていることが多いのです。不就学の子どもたちに学校を辞めた理由を聞くと、「先生、今わからない日本語を勉強しても、結局この先働くのはあの工場じゃないか。自分の親も親戚もあの工場で働いている。自分も将来あの工場で働くのなら、今でも年齢をごまかせば働けるし、お父さん、お母さんと同じ収入が得られる。だから、大変な思いをして日本語を覚える必要もないよ。それで、学校も面白くなくてやめたんだ」と答える子どもたちが大半でした。その子どもたちの中には、13、14歳で妊娠、出産している子どもたちもいました。
でも、子どもたちと親しくなっていくうちに「本当は学校が好きだったし、楽しかったし、勉強もしたかった。出身国では良くできる方だった。でも、日本に来たら日本語ができなくて、自分は低く見られる。中学校の成績は全部1。中学校の成績は5教科の中間、期末テストで評価される。自分たちはテストの問題がわからない、書き方もわからないのでやらない。それでテストは0点、通信簿には1がつく。いくらひらがな、カタカナ、漢字を覚えても評価されない。そんな学校面白くないよ。」と言うようになりました。その声を聞いてこの子たちの努力が評価される社会、将来が花開く社会になってほしいと強く思うようになりました。
全家庭を3回実施する中で、外国人の保護者たちに「子どものことで困ったこと、悩んだことは何ですか?」と聞いてみました。すると、圧倒的多数の方々が「自分たちは雇用が安定していない。いつ首を切られるかわからない。そうした中で、子どもたちの教育のことをどう考えていいかわからない」と答えました。親ですから、決して子どもたちの教育に無関心というわけではないのです。ただ、教育のことを考えられる環境、社会保障ができておらず、そのことが子どもたちの就学にも大きく関係していることがわかりました。
▲当日の会場の様子