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企業と外国人登録証明書
2006年度 第3回 多民族共生人権啓発セミナー
講師:内海 義春 さん (大阪企業人権協議会 事務局長)
私が外国人登録証明書(以下「外登証」)と出会ったのは人権担当者になった1997年のことです。当時会社で外国人に係わる各種規定・取扱いに関して人権の視点(差別的な扱いになっていないか等)から見直しをしようという取組みがなされました。そこで初めて外国人登録法を知り、「外登証」ついても学びました。その中で、先輩から「外登証」の提示を求めることは人権上極めて問題になることを教えてもらいました。このようことを経て、私は人権研修担当者として外国人の人権問題で「外登証」についても社内で研修、啓発を数年間取組みました。その後、しばらくはこの問題からは遠ざかっていましたが、2004年に金融機関での差別事象で再びこの問題を考える機会を得ました。その時に問題となったのは、永住資格のない人にはローン契約で与信に制限を設けるということでした。しかしながら、このことに関連して「外登証」の提示を求めたという問題も起こっておりました。つまり、ローン商品の申込みの際に永住資格の有無等を確認にするために外国人には「外登証」の提示を求めていたのです。その後の取組みによって、永住資格の有無だけで与信のあり方が左右されるということは問題であり、規定等の見直しをするということの中で「外登証」の問題も一応の解決されたと伺っています。しながら、2006年には人材派遣会社において永住資格のある在日三世の人に「外登証」の提示を求め問題となるなど、「外登証」の問題は依然として根本的な問題解決には到っていません。
「外登証」の提示の問題が非常に重要な人権問題であるという認識は、多くの人たちが持っていると思います。しかし、なぜ重要なのか、なぜそれが問題なのかと掘り下げて勉強している人には、残念ながらこれまで企業の人たちの中では出会ったことがありません。しかしなが |

▲講演する 内海 義春さん |
ら、これからの多民族共生社会が展望される中では、日本の企業の外国人の人権問題として、もっとしっかりと取組む必要があると思っています。日本社会が外国人に対してどのような捉え方をしているのかということが象徴的に現れるものだと思います。是非とも皆さんと一緒にこの問題について勉強していきたいと思っています。
●外国人を取り巻く法制度
外国人に関する法律は、外国人登録法と出入国管理及び難民認定法の2つです。外国人登録法の第1条には「居住関係や身分関係を明らかにして、もって在留外国人の公正な管理に資すことを目的とする」と書かれており、この2つの法律とも、その目的は外国人の管理にあると言われています。ある行政のホームページには「なぜ外国人だけを対象とする登録制度が必要なのか?」という問いの答えとして「日本人の身分関係は戸籍簿に、居住関係は住民票に記載されるが、これらの対象外となる外国人については、その居住関係や身分関係を明らかにしておく必要があるため、外国人登録制度が設けられている。」となっています。しかし、実際の運用の歴史的な経過や外国人の人たちの受け止め方は違ったものとなっています。「見方によれば外国人の治安対策法ともとれる」と言う人もいます。
外国人登録法の概要を要約的に説明すると 1.日本に一定期間(90日以上)在留する外国人は、その居住地の市町村の長に外国人登録申請書、写真等を提出し、外国人登録をしなければならない、2.登録されると、市町村が保管する「外国人登録原票」という原簿に記載されるとともに、登録された顔写真、居住関係・身分関係事項のうち一定事項を記載した外国人登録証明書が交付される、3.16歳以上の外国人は交付を受けた外国人登録証明書を常に携帯していなければならない、4.警察官、海上保安官、入管審査官等、その他法務省令で定める国または地方公共団体の職員がその職務の遂行にあたり提示を求めた場合には、提示しなければならない、5.外国人登録証明書を携帯しなかったもの、提示を拒んだものは罰則に処される、となっています。「外登証」に記載されている事項は、氏名、生年月日、国籍等、居住地、世帯主・世帯主との関係、職業・勤務先等、出生地、旅券(旅券番号)、上陸許可、在留資格、在留期限、次回確認申請期間発行者、署名の14項目となっています。さらに顔写真も掲示されています。このように、センシティブな情報も数多く載っているのです。そのため、信用性が高く利便性にも富むという側面とプライバシーが侵害されるという側面二面性を持ったものとなっています。「外登証」と運転免許証の情報量を比べれば、その差は歴然としています。また、外国人登録法には、2つの人権上の問題があると言われています。1つは制度開設時から長きにわたって、指紋押捺義務が課せられていたことです。日本人であれば、犯罪容疑者以外に指紋押捺義務を負わせる例はなく、そのことから考えてもこの指紋押捺義務が外国人に対して非常に強い屈辱感を与えていたことが分かります。そこで、1980年代には多くの指紋押捺拒否者が発生し、指紋押捺反対運動が起こりました。そのような流れの中で、1993年に永住者、特別永住者に対する指紋押捺が廃止され、1999年に1年以上滞在する外国人に対する指紋押捺が免除されました。このように、現在では指紋押捺の問題はほとんどなくなっています。しかし、その間在日コリアンをはじめとした外国人が感じてきた、「外登証」に対する屈辱感等のさまざまな歴史的な思いはしっかりと理解し、共感し、受容することが必要であると考えています。二つ目は「外登証」の常時携帯義務です。「外登証」を交付された人は常時携帯しなければならないとされ、その義務に反したときは罰則が課されます。罰則は在留資格によって異なり、特別永住の資格の人が常時携帯義務に違反した場合、行政罰として10万円以下の過料となります。しかし、それ以外の在留資格を持つ人が違反した場合には刑事罰として20万円以下の罰金となり、逮捕の対象であり前科となってしまいます。また、特別永住者も以前は刑事罰の対象とされていました。これが、1993年、1998年に国際人権規約委員会によって「永住者に対して外国人登録証を常時携帯していないことを犯罪とし、刑事罰を課す外国人登録法は差別的法律である」という指摘を受け、現在のような行政罰に改正されたという経緯があります。しかしながら、どのような罰則になろうとも、日本人であれば戸籍謄本、住民票の写しにあたるものを、常時携帯義務を負わせて罰則を与えるということは人権尊重の視点からは問題があると言われています。
●企業と外国人登録証明書
企業での外国人登録証明書の取扱いは大きく分けて「業務に関連しての本人確認」、「就労資格の有無の確認」という2つの目的が考えられます。そして、「顧客等が自ら提示する、しない」という提示方法の如何に関わらず、公信性の高い証明書として使用されることが多いといわれております。このような状況の中で先ほど少し触れました、2003年に起こったA金融機関での外国人に対する差別事象について少しお話したいと思います。このときの事象は本人確認がなされた後に更にお客様に「外登証」の提示を求め、与信の判断のために在留資格の有無を確認しようとしたものです。この場合、「外登証」を本人確認だけに留まらず、在留資格などの情報も得るために使ったのです。また、2006年にB人材派遣会社が起こした差別事象は、永住資格を持つ在日コリアン3世が派遣社員の登録を行ったところ、「外登証」の提示が採用の要件となるような対応があったというものです。私が1997年に「外登証」の問題に出会ったころ以前から企業の活動との関係で「外登証」が問題になっていたのですから決して新しい問題ではありません。しかしながら1990年代と現在では大きく変わったこともあります。それは、従来は「外登証」に関して企業などが提示を求めることに関しての法的な規定はありませんでしたが、2003年施行された「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」によってマネーロンダリングに関しての本人確認に関するルールができたことです。これは所謂マネロンに関する規定ですが、それがあらゆる領域での本人確認方法のルールとして一般化していっています。この法律における本人確認の方法として、窓口(店頭)で証明書の提示を受けるだけの場合と窓口(店頭)で証明書の原本の提示を受け、顧客の住居に取引関連書類を書留郵便等で返送する場合があり、それぞれの場合の証明書の例が挙がっています。前者の場合の書類としては「運転免許証各種健康保険証、年金手帳等、旅券、外国人登録証明書、取引に利用する印鑑の印鑑証明書など」となっており、後者の場合の書類としては「住民票の写し、戸籍謄本・抄本、旅券、取引に利用する印鑑以外の印鑑証明書、外国人登録原票の写しなど」となっています。この2つのケースに挙げられた書類は一見よく似ていますが、前者は本人しか持っていないと思われるもの、後者は他人でも取得可能であると考えられるもので取扱いに違いが設けられております。なお、インターネットや電話、郵送などで本人確認を行う場合には、前者で挙げられた証明書が使用されていても書留郵便等で返送し確認しなければならないとされています。次に新たに出てきた問題は、外国人労働者の雇用に関連する事柄です。これは、少子高齢化が進む日本社会において外国人労働者を受入れるという大きな流れがある中で、外国人の不法な就労への対策を進めるための取組みの中から出てきたものです。外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針には「事業主は、外国人労働者を採用するにあたっては、あらかじめ、旅券、外国人登録証明書等によりその留資格が就労が認められているものであるか確認するものとする」と書かれています。この指針を守るための参考・解説として、就労に制限のある在留資格、就労が認められていない在留資格、就労に制限がない在留資格がそれぞれ列記され、同時にどのような書類を見れば在留資格を確認することができるかということも解説されています。そのどのような書類のひとつとして「外登証」があげられています。この指針(不法就労の人は雇わないようにと指導)は国からの企業に対してのコンプライアンス上の要請として相当重く受け取られています。このように、いずれの確認行動の中でも「外登証」が確認する資料として全面的に表れてきました。
●法制度と人権尊重
企業は企業の社会的責任としてコンプライアンスを遵守すべく法等に則った業務の遂行を行うことは大切なことです。しかしながら、これら2つの法律等について少し気をつけておかなければいけないことがあります。まずは本人確認法についてですが、本人確認法は有効な確認資料を列記しているだけで、どの資料を使わなければならないと規定しているわけではありません。従って、本人確認法によって「外国人登録証明書の提示を求めることが確立されたのだ」と決して考えるべきではないのです。もう1つは、「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針」がいう外国人労働者の範囲には、永住者と特別永住者は含まれないということです。この二つのことをまずはしっかりと理解しておくことが必要です。そうした上で、企業は人権尊重の視点に立ったコンプライアンスの遵守を行っていくということが必要であると思います。
本人確認について言えば、日本人に対しては運転免許証の提示を求めるのに、外国人であると分かると 「外登証」の提示を求めるなど、日本人か否かによって取り扱いを変えることは極めて差別的な扱いであると思います(外国人も運転免許証を持っています)。また、例え差別や排除をするという意図がなくても、軽々しく「外登証」の提示を求める、求めてしまうことは、その歴史的な経緯を踏まえれば極めて不適切な行為であることを理解・認識して企業運営をするべきであると思います。外国人の本人確認は「外登証」と限定するような規定や運営は差別的な取扱いであると共に、差別の助長・拡大につながる恐れもあることをまずは人権担当者がしっかりと理解する必要がありますそうした上で企業全体に十分に理解・浸透させていかなければなりません。その中で、個人情報保護の基本原則にのっとり、自己情報コントロール権の尊重の視点にたった取扱い、すなわち、どの資料によって本人確認をするのかは顧客が任意で選択するという方法を採るべきだと考えています。
そもそも、外国人の本人確認書類を「外登証」と限定することの背景には、外国人に対するさまざまなステレオタイプがあるのではないかと考えられます。マイナス面の強いステレオタイプでは「外国人は信用できない」「外国人は何をするか分からない」等の不信感、警戒感につながります。これによって、外国人に相対するときにはついつい身構えてしまうことになります。そのことが、外国人にはより厳しい本人確認をすることが必要であるというような考え方になり、「外登証」の提示を求めるという行為につながっているのだと思います。取引をする場合にその人の信頼度を確認するための資料として、在留資格・在留期限を基準として永住資格の有無などで一律に判断するケースも増えてきています。永住資格のない外国人の中にも、最近になって日本に来た人もいれば、何十年も日本で生活し、生活基盤を日本で確立している人もいます。そんな状況を無視して「外国人」というカテゴリーの中で多様な外国人を十把一絡に捉えて、永住資格の有無だけで、与信審査等を行ってしまうことはいかがなものでしょうか。企業はCSRや人権尊重の視点に立ち、外国人に対して過度なリスク管理を行っていないか見直す必要があると思います。日本社会が国際化あるいは多民族共生社会へと進んでいく中で、「外登証」問題についても国の政策領域との整合性だけで考えるのではなく、自分たち自身の心のあり方等の問題とともに企業の人権尊重の体制づくりを考えなければならないと思います
雇用問題についても、今後、ますます増加する外国人を雇用する際に、就労資格の確認を行うことも必要なのかとは思います。しかしながら、外国人が多様化するといっても日本国内に居住する最大数の外国人は在日コリアンです。そのことをも念頭に置いた就労資格の確認を行わなければなりません。このような視点に立って考えれば、「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針」の第2条に書かれていることを決して見落とさず、遵守しなければなりません。特別永住者、永住者には就労資格の確認は必要ありません。そのことをしっかりと認識し、社内規定の中に盛り込むことも必要です。なお、誰が永住者かどのようにして見分けるのかという問題は、今後も継続した議論が必要ですが、面接時の日本語能力や履歴書での卒業学校、運転免許書の取得年月日等によってその人がどの程度の期間日本で生活してきたかにより十分に推量ることができます。その中で、特別永住者の在日コリアンか最近日本に来た人なのかというような判断をしてもいいのではないかと私は思います。また、そうした上でその他の外国人の在留資格の確認についても、任意性、選択性に十分配慮した在留資格の確認の取り組みを行っていく必要があります。
法制度と人権の視点に立った対応には隔たりがあるとは思います。そうした中で企業は、外国人についての人権上のさまざまな問題についての理解を、企業内で浸透させておかなければ対処療法的な取扱が作りだされてしまいます。歴史的な経過を正しく学び、その上で対処しなければならない問題についても人権尊重の取組を行っていく必要があります。それが、多民族共生社会の中で企業がCSRとして外国人の人権問題に取り組むということなのではないでしょうか。
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