多民族共生人権教育センター
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オピニオン 「拉致被害者家族の方々の心の痛みから戦争被害者の方々の痛みに思いを至らせて」丹羽雅雄

拉致被害者家族の方々の心の痛みから戦争被害者の方々の痛みに思いを至らせて

 日朝首脳会談が行われた背景は、四つあると考える。一つは、2000年6月15日の南北共同宣言の実現。二つ目は、1991年9月に南北朝鮮が国連に同時加盟し、国際的な外交政策に入っていったこと、そして、それを国際社会も受け入れていったこと。三つ目は、共和国の経済的な困窮。そして最後は、ブッシュ政権の軍事外交政策である。
 当初は、行方不明者という名目で数名の安否情報のみ提供されると考えていたが、現状は10件13人の安否情報が死亡年月日まで含めて提供され、驚くと同時に、なんとも言いようのない痛恨の念を感じた。

 金正日総書記が拉致を認め、かつ謝罪したということは、これまでの共和国の外交政策では考えられないことである。これは共和国の並々ならぬ日朝交渉に対する決意の反映でもあり、真相解明にとっても大きな前進である。
 もちろん、国家犯罪を犯したのだから、遺族に対して真相真実を明確に伝え、より深い謝罪と適正な補償を履行するのが当然の義務である。
 同時に、1990年に日朝交渉を始めて以降、核問題などを持ち出すことによって、むしろ日本の側が交渉中断の原因をつくってきたということも忘れてはならない。拉致家族の方々は日本政府に対して真相究明をずっと求めてきた。外交交渉を積極的にやれ、と。それを10年以上、放置してきた日本政府の責任も問うていかなければならない。一歩前進したとはいえ、残された課題は山積みである。

 しかし、今、私にとって何よりもいたたまれないのは、在日韓国・朝鮮人の方々に対する嫌がらせがまた起こっているということである。日本社会はこれまでテポドン事件や核査察問題などがあるたびに、朝鮮学校の女学生を中心とする子どもたちに対し暴力行為を行ってきた。国家の犯罪と日本に住む在日の人々の生活はまったく関係ない。そういう日本人の民族排外主義的体質に対して非常に危惧感を持っている。そうした犯罪行為をなくすためにも、人種差別禁止法や民族差別禁止法などを制定し、チマチョゴリを切り付ける人間は、刑法だけでなく特別法で処罰できるようにするのが緊急の課題だと思っている。

 今回の日朝会談で一番求めるべきは過去の歴史の償いである。この償いを一つのテーマとして日朝首脳会談が開かれたことは、歴史を新たに開く一歩になったことは間違いない。
 1965年の日韓条約で経済援助方式、請求権の放棄、謝罪という文言の不使用という条件のもと、有償・無償5億ドルが提供されたが、そのうち被害者個人に行き渡ったのが5.4%に過ぎなかった。この現実が日朝条約で繰り返されてはならない。私達にとっての今後の課題は、これから作成されるであろう「日朝基本条約」の中に、植民地支配に対する明確な謝罪を盛り込むこと。さらに、経済援助ではなく償い、補償をきちっと求めていくことである。その時に、国家間の交渉であるけれども、その内容は本当に被害を受けた人々が補償される内容、システムにすることが何よりも重要である。

 それからもう一つ、同じ日本に暮らす人間として、在日コリアンの地位に関する問題も忘れてはならない。日本政府は日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決したといい、韓国政府は、経済援助方式に基づく日本政府からの有償・無償5億ドルを、在韓の遺族のみ約8,000件、一件あたり30万ウォンを支払ったのみであり、もちろん在日コリアンは除外した。しかし、「平壌宣言」には在日コリアンの地位に関する問題が入っているので、民族教育、国籍、参政権、公務員任用、差別規制など、日韓条約で積み残された在日コリアンの法的地位問題を解決し、すべての在日コリアンが権利と文化を保障されるようになってほしい。
 「日朝平壌宣言」は交渉のスタートラインである。これにより大枠は決められたが、本当の交渉はこれからである。そして、これをどう変えていくかは民衆の力にかかっている。
 拉致被害家族の方々の心の痛みは想像するに余りある。しかし、そうであればこそなおさら、同じ痛みを50年以上も持ち続けている朝鮮の人々の痛みにも思い至る必要があるのではないか。強制連行で何人の人々が連れ去られたか。彼ら・彼女らの多くは帰ることができなかった。今だからこそ、そんな朝鮮の人々の痛みを理解できる。国家の論理ではなく、人間の論理に立って、冷静になって考えなければならない。

弁護士 丹羽 雅雄

 

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