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多文化共生社会における教育はどうあればいいのか
1 子どもたちの状況
中国や南米からの子どもたちが教育現場に急増しているが、彼らの状況には60〜50年前の在日コリアンに通底するものがある。子どもたちは空間的、時間的、文化的に「分断状況」に置かれている。「中国残留孤児」の呼び寄せ家族を例にとって考えてみたい。
空間的には祖国からの分断である。彼らは、祖国の祖父母、親戚、友人などの豊かな人間関係を断ち切って渡日している。いわば「植木の根切り」状態である。「移植先」の土壌は、柔らかく耕されているであろうか。残念ながら、「言葉の壁」から、家族は地域社会から分断され、子どもたちも学校単位で分断され孤立している。
時間軸においても分断されている。「なぜ、今、自分が日本にいるのか」という過去との分断である。親たちは、祖父母の世話や日本での生活設計など、それなりの決意を持って来日している。けれども、それが子どもたちに十分に伝わっていないのである。また、「将来、どのような生き方をするのか?」という未来も描きにくい状況に置かれている。なぜなら、親たちの多くは「3K」の職場で働き、生活に精一杯で子どもの教育に配慮する余裕がなく、進路に対する情報も十分に与えられていないからである。
文化的には祖国の文化や言語からの分断である。かつて在日コリアンの子どもたちがそうであったように、日本の学校で学ぶことは、祖国の文化から切り離され、日本文化を内面化し、母語を喪失することを意味している。また、「中国人ピッキング」、「中国人マフィア」など、プロの犯罪集団の犯行を、中国人の全てがそうであるかの印象を与えるマスコミ報道が垂れ流され、子どもたちが民族的な誇りを持つことが困難になっている。
2 われわれの教育課題
そこから、我々の教育課題が明らかになってくる。彼らの「分断状況」をどのように「連結」するかである。
第一は、学校単位で分断されている子どもたちに出会いの場を創出することである。仲間と出会うことで、「自分は一人ではない」と勇気づけられる。そこでは、親にも教師にも言えない悩みを、同じ境遇ゆえに打ち明けて理解し励まし合うことができる。
第二は、祖父母の歴史や祖国の文化と出会わせて「ルーツ」に繋げることである。そのためには、「満蒙開拓」や「文革時代」の迫害など、祖父母の体験した歴史や同伴帰国した両親の想いに触れさせる歴史学習が求められる。また、祖国の豊かな文化と出会う学習も必要である。
第三は、「あのようなお兄ちゃんやお姉ちゃんになろう!」というような、アイデンティティの対象になる人物(ロールモデル)と出会わせ、未来への展望を与えることである。
3 松原市の実践事例
近年、中国籍の子どもが急増した松原市の小・中学校では、祖父母や両親への聞き取り調査とそれをクラスや学校全体に発表する歴史学習が積極的に実践されている。また、ある小学校では、学校掲示の全てを二ヶ国語で表示し、運動会では中国語アナウンスも付け加えられている。日本文化への同化を強いるのではなく、学校を多文化化しようとしているのである。このような取り組みは、将来、多民族化する社会にあって、日本人の子どもにとっても貴重な財産になるであろう。
さらに、松原市教育委員会は、外国籍の子どもたちを集めての合宿キャンプを夏休みに開催している。そこには、大学進学したり社会人として活躍している先輩がゲストスピーカーとして招かれている。その一人が上村香織さんで、大学院の博士課程で日中両国の文学の比較研究に従事する傍ら、夜間中学校の講師として中国帰国者の相談相手になっている人物である。彼女の夢を実現するまでの体験や文学研究の面白さなど、子どもたちは瞳を輝かせて聞いたという。同じ立場の仲間に出会うだけでなく、ロールモデルにも出会えるような機会が、民族的なアイデンティティを育む教育には必要なのである。
奈良教育大学教授 田渕 五十生
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