多民族共生人権教育センター
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オピニオン 「「周縁化」「不可視化」を克服するための広範な連携を」

「周縁化」「不可視化」を克服するための広範な連携を
−人種差別等に関する国連特別報告者による日本報告書の発表を受けて−

 日本社会には「見えなくされてきた人びと」「存在をきちんと知らされてこなかった人びと」が確かに存在しており、そのことを社会的・歴史的背景を含めて認識し、適切な方策を講じることなしに、多文化共生社会の構築は不可能だ−国連人権委員会が任命した「現代的形態の人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連する不寛容に関する特別報告者」であるドゥドゥ・ディエンさんは、初の日本公式訪問(2005年7月3日〜11日)を受け1月24日に報告書を公表し、日本社会の問題点を正面からこう指摘した。

 報告書は、その結論部分の冒頭で「日本には人種差別と外国人嫌悪が確かに存在する」と明言し、その影響を受けている主な集団として、1)ナショナル・マイノリティ被差別部落出身者、アイヌ民族、沖縄の人びと)、2)朝鮮半島・中国など日本の旧植民地出身者とその子孫、3)その他のアジア諸国および世界各地からやってきた外国人・移住労働者、を取り上げ、それらの集団が被っている差別状況を記述している。そして日本政府に対し、被差別集団の実態調査を通じて人種差別の存在を公式に認め、それを撤廃する政治的意思を表明することや、差別を禁止・処罰する法律の制定、問題に対処するための国内機関の設置、歴史教科書の見直しなど、24項目にわたる包括的な勧告を提示している。
 報告書は、その詳細において理解が十分でない部分や誤解に基づくと思われる点があったり、必ずしも日本における人種差別の問題すべてをバランス良く取り上げていなかったりするものの、日本における人種主義・人種差別・外国人嫌悪の問題を、法的側面にとどまらず、社会的・歴史的文脈にまで踏み込んで包括的に捉えた、初めての国連文書であり画期的なものと言える。
 国民国家の形成と植民地主義、そして近年における新自由主義的グローバル化と「反テロ戦争」は、報告書が取り上げているさまざまな集団をますます周縁化し、厳しい差別にさらし、歴史から葬り、固有の文化を奪ってきた。そして、このように社会的に不可視な存在にされたマイノリティは、他のマイノリティやマジョリティと分断され、国家が、治安管理や権力維持のために、その分断状態を利用してきた。差別を生み出してきた構造的な問題の存在そのものが包括的な形で提示されたことには、大きな意味がある。

 そうした認識を踏まえてIMADR-JCは、報告書の意義と内容を多くの人びとに伝えるべく、有志の協力を得て報告書の日本語仮訳を作成・公表した。そして、細部の事実誤認のみを指摘して報告書全体を否定する形の批判に備え、報告書の価値と意義を守り発展させるべく、マイノリティ当事者団体やNGOとともに共同行動のためのネットワークづくりを呼びかけた。この呼びかけには、多民族共生人権教育センターを含む多くの団体・個人が敏速に応え、現在、マイノリティ当事者団体・個人ならびに人種差別・人種主義・植民地主義の問題に関心を寄せる団体・個人による、広範な連携の基盤が築かれつつある。
 去る3月7日には、広範な課題に取り組むマイノリティ当事者団体やNGOの共同によって、記者会見や参議院議員会館での集会を開催し、日本内外に示す共同声明(71団体が署名)を発表し、マイノリティ当事者それぞれの視点から報告書の意義と価値を明らかにした。院内集会には多くの国会議員も参集し、今後国会内で報告書の勧告の履行を求めていくための足場も作ることができた。また、日本政府に対しても、報告書の勧告を実現するためにあらゆる措置をとるよう申し入れを行なった。さらに、今後に向けては、1)ネットワークの拡大と報告書の内容の周知、2)報告書を補充する文書作成、3)日本政府、国会議員へのはたらきかけ、4)各地での集会の開催、5)ディエン特別報告者による再来日の追求、などが検討されている。

 また、報告書の内容を多くの主体でともに検証するにしたがって、異なるマイノリティ集団間における相互理解の重要性や、残念ながら報告書に盛り込まれなかった事項について認識を共有していく必要性を指摘する声も大きくなっており、これらを確実に実施していくことも大切だ。例えば報告書には、「中国残留孤児・婦人とその家族」あるいは1990年の入管法及び難民認定法改正以後の「日系就労渡日」者と「日本人との結婚渡日」者といった人びとが直面する問題、また、日本政府が難民受け入れに非常に消極的であることなどについて、言及がなされていない。さらに、外国籍の子どもたちの教育については、朝鮮学校の現状に焦点が当てられ、外国籍の子どもたち全体の問題として捉えるという視点が不十分で、それらの子どもたちの不就学、強制送還、進路の問題に関する言及がない。

 ところで、報告書の勧告は日本政府にだけ向けられたものではない。報告書が、「差別を受けている集団が相互連帯の精神で行動し、たがいを支持し合うべきである」との勧告で締めくくられていることにも注目したい。前述したような、報告書の公表を契機として現在形成されつつある広範な連携の萌芽を大切にはぐくむ必要性が指摘されているのである。今回の報告書には大きな意義と価値があるが、それは完璧なものではない。それを単に「外圧」として利用するのではなく、前述したような不十分な部分を、反差別・人権を接点とした広範な連携に基づく共同作業によって補完し、「見えなくされてきた人びと」「存在をきちんと知らされてこなかった人びと」の真の実態を世の中に示すことから、始めたい。

* 報告書全文の日本語訳(IMADR-JC訳/平野裕二監訳 は、IMADR-JCのウェブサイトから入手できる。
 (http://www.imadr.org/japan
 

反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC) 事務局長  森原 秀樹

 

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