多民族共生人権教育センター
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オピニオン 「不審者」情報にひそむ外国人差別

「不審者」情報にひそむ外国人差別

 最近、私の住む滋賀県内のある自治会で、以下のような文面の「緊急連絡」が回覧された。

「最近、町内を徘徊し、各家の様子を偵察している二人組の外国人が目撃されています。/また、不審者などの情報もあることから、子どもやお年寄りの安全はもちろん、空き巣等の被害に遭わないよう、自治会員各位が注意を払い、地域の見回りに配慮してくださるよう、お願いします。」

 ちなみにうちの町内は、近くに大きな病院、公園、公営住宅があり、また留学生も近くにあちこち下宿していたりして、その辺を「外国人」が歩いていても特に不思議ではない場所にある。
 普通に考えてもいろいろな疑問がわく。「二人組の外国人」は、ただ友達の家に行こうとして道に迷ってウロウロしていただけかもしれない。仕草などが日本人とは違い、話している内容がわからなければ、外国人はただ世間話をしているだけでも「不審者」に見えてしまうかもしれない。それに、これから住居侵入でもしようとする人が、外見上「外国人」と認められるような明るい時間に「偵察」し「徘徊」するだろうか? それとも目撃されたのが夜だったとしたら、どうして外見から「外国人」だと確認できたのだろう?…など。
 私は授業等で、関東大震災時の朝鮮人虐殺について話す際、必ず今日における「外国人犯罪」報道の問題点についても関連づけて説明している。例えば、逃走中の犯人の目撃情報などから「外国人風」と警察が発表しマスコミが報道した事件でも、犯人がつかまってみたら日本人だったことも多いが、最初の報道の訂正はほとんど行われないので、人々には「外国人」=危険というイメージだけが残る、など。1923年の関東大震災における朝鮮人虐殺は、日常の差別の延長上にあることはもちろんだが、1919年の三一独立運動を「不逞鮮人の暴動」としか理解できないような中でつくられた「イメージ」=先入観によって起きたと言えるからだ。

 そんな私が、自分の足元で起こったこの「緊急連絡」について、素通りしていいはずがない。しかし狭い地域社会の中で「人権侵害だ!」と抗議しても良い結果にはならないと思われた。
 そこでまず自治会の役をやっている知り合いを通じて、もともとの目撃情報について、「外国人」と特定するに足るどのような情報があるのか聞いてみた。当然のことながら「外国人」といっても、外見(肌の色、髪の色、背格好、容貌)、話し言葉(何語)、性別などの情報すらなければ、「警戒」のしようがない。「外国人が徘徊している」というのは「人間が歩いている」というのと全く同じことなので、情報としての意味をなさない。しかし結局、「日本人とは雰囲気が違う」という程度の目撃情報しか把握されていないことがわかった。ますます捨て置けない問題だ。
 考えた末、この「緊急連絡」の問題性に気づいてもらえるようなお手紙を自治会の役員宛に書くことにした。まず、単に「二人組の外国人」という情報だけでは、警戒情報としての機能は実はほとんど果たさないことを指摘。次に、どんなに悪気が無く、地域の防犯に資するためであっても、こうした表現で「緊急連絡」が回れば、誰しも「外国人は危ない」という無根拠な印象を強めてしまうこと、それが回り回って、地域に多数住む外国人への差別や外国人の子どもたちへのいじめにつながるかもしれないこと、そうすれば地域の外国人との間に心の溝が深まってしまうことなどの「副作用」について述べた。そして今後は「外国人=不審」というイメージをいたずらに助長することのないよう充分配慮して欲しいと結んだ。

 結果は、どうやら理解してもらえたようで安心した。実は昨年、近隣の市で教育委員会が発する「不審者」情報の中で、「不審者」が南米系市民であるかのように書かれた部分があったため市民団体が抗議をし、市も非を認めて撤回と謝罪の文書を発して職員の人権意識向上に努めることも約束したという一件があった。子どもが被害にあう事件が相次ぐ中、「不審者」情報を共有しようとする動きは今後もますます強まるだろうから、今回わが自治体で起きたようなことは、いつでもどこでも起きる可能性がある。
 この件について話していた、同じ地域に住む中国人がこんなことを教えてくれた。入管で「犯人の特徴は中国人風」という掲示を見たことがあると。いったいどこの誰が「日本人」と「中国人」を外見で識別できるというのだろう。まじめに犯人を捜そうとしているとはとても思えない。単なる中国人敵視政策だ。国の機関はこんな調子だが、どうか地域住民としての皆さんは、「外国人風」とか「中国人風」とかいう言葉は情報として意味が無く、デメリット(人権侵害)のみを引き起こすという当たり前のことを常識としてほしい。そして、「徘徊する外国人に警戒しましょう」などという「不審者」情報が回ってきたら、真顔でこう言おう。「そんなバカな!歩いている人間は全部警戒しなくちゃいけないの?」

滋賀県立大学人間文化学部教員 河かおる

 

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